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離婚と自己破産

 

離婚後、自己破産するとどうなるか

自己破産を検討されていたり、自己破産手続中のお客様から、「すでに離婚して、財産分与や養育費を支払っているが、自己破産をしたらどうなるのか」「これから離婚をした場合どうなるのか」などのお問い合わせをいただくことがしばしばあります。
 
離婚そのものは身分行為ですので、自己破産手続とは直接関係がありませんが、離婚に伴う「財産分与」「慰謝料」「養育費」などの給付や受領は財産行為であるため、給付が破産管財人による否認の対象となるか、給付義務が免責の対象とされるか、また、受領予定または既に受領した財産や養育費などが破産財団に組み入れられるかが問題となります。
 
以下、離婚に伴う財産的給付が、自己破産手続上、どのように扱われるのか説明します。

離婚に伴う財産的給付の義務者が自己破産する場合(支払側の自己破産)

破産者が、いわゆる実質的危機時期(支払停止時期)以降に、離婚に伴う財産分与、慰謝料、養育費を支払った場合、それらの支払いが破産管財人による否認権行使の対象行為に該当するか否かが問題となります。
 

    • 1.財産分与の支払いについて

 

      • 支払停止後に離婚に伴う財産分与を支払った場合、破産管財人により否認されるか否かが問題となります。

 

      • この点、離婚に伴う財産分与は、詐害行為取消権(民法424条以下)との関係において、「民法766条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認められるに足りるような特段の事情がない限り、詐害行為にはならない」(最高裁判所昭和58年12月19日判決)と考えられています。

 

      • このような詐害行為取消権についての財産分与の考え方については、破産手続における否認権行使の場面にも適用されると解されています。財産分与が離婚という身分行為に伴う行為であることが重視されるからです。

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        つまり、離婚に伴う財産分与は、不相当に過大でない限り、破産管財人による否認権行使の対象とはならないと考えるのが一般的です。

 

      • ただし、財産分与については、①婚姻期間中の実質的共有財産の清算以外に、②離婚後の相手方の扶養の要素を含むものと、③離婚による慰謝料の要素を含むものがあり、財産分与の金額に占める②③の要素の割合が大きい場合には、身分行為の側面が薄れ、財産行為の性質が重視され、偏頗行為否認(破産法162条)(支払停止後の特定の債権者に対する弁済が破産財団のために否認されること等)の対象となるという考え方もあります(『条解破産法(第3版)』参照)。

 
 
 

    • 2.慰謝料の支払いについて

 

      • 支払停止後に離婚に伴う慰謝料を支払った場合、破産管財人により否認されるか否かが問題となります。

 

      • 離婚に伴う慰謝料について、詐害行為取消権(民法424条以下)との関係では、「負担すべき損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権の対象となる」(最高裁判所平成12年3月9日判決)と考えられています。

 

      • しかし、破産手続との関係では、先に述べた財産分与と異なり、慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償請求権であり、離婚という身分行為に伴うという性質は乏しく、仮に、本来負担すべき損害賠償の額の範囲であっても、偏頗行為否認(破産法162条)の対象とされます。

 

      • 例えば、破産者が、支払停止後に離婚に伴う慰謝料を支払った場合、それが本来負担すべき損害賠償の額の範囲にとどまるものであったとしても、債権者間の平等を害する行為として、偏頗行為否認の対象に該当し、破産手続開始後、破産管財人から否認権を行使されることになります。

 
 
 

    • 3.養育費の支払いについて

 

      • 財産分与と同様に、離婚後の子のための養育費の支払いは、不相当に過大でない限り、破産管財人による否認権行使の対象とはならないと考えるのが一般的です。

 

      • しかし、養育費が一括払いにより支払われた場合や、毎月支払われていても不相当に多額であり累積して高額になったりした場合には、否認権行使の対象となり得ます。

 
 
 

    • 4.離婚に伴う財産的給付は免責されるか

 

      • 離婚に伴う財産分与や慰謝料を負担する人が自己破産した場合、これらの支払義務は、破産手続開始前の原因に基づく財産上の請求権(破産法2条5項)といえることから、原則として免責の対象になります(破産法253条1項)。

 

      • しかし、離婚に伴う慰謝料が、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権に該当する場合や(破産法253条1項2号)、故意または重大な過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権に該当する場合(破産法253条1項3号)、非免責債権として、免責の対象となりません。

        ここで、破産法253条1項2号にいう「悪意」とは、単なる故意ではなく、積極的な害意を意味しますので、例えば、相手方への著しい暴力等を理由とする慰謝料については、積極的な害意があるものとして、免責の対象とならないと考えられます。これに対して、不貞行為の慰謝料については、一般的に「悪意」の不法行為とまで評価されず、免責の対象となることが多いと考えられます。

 

      • また、養育費については、非免責債権として、免責の対象となりません(破産法253条1項4号)。

離婚に伴う財産的給付を受ける権利者が破産した場合(受取側の破産)

破産者が、離婚に伴う財産分与や慰謝料、養育費を受ける側の場合であったときには、当該財産が、行使上の一身専属性との関係で、破産管財人による換価の対象となるかどうかが問題となります。
 

    • 1.破産手続開始時点で財産的給付を受け取っていない場合

 

      • 財産分与について

 

        • 離婚に伴う財産分与請求権は、行使上の一身専属性を有するとされ、破産管財人の管理処分権が及ばないのが原則ですが、破産者と相手方との間で財産分与の金額が確定した場合には、行使上の一身専属性が失われ、破産管財人により財産分与が破産財団に組み入れられることとなります。

 

        • なお、離婚に伴う財産分与については、金額が確定しなくても、財産分与請求権を行使することの確定的意思を外部に表明した段階で、行使上の一身専属性が失われるとする考え方もあります。

        • この考え方によると、例えば、破産者が相手方に対し、離婚の調停や訴訟で財産分与を請求した場合には、破産管財人が相手方に対し財産分与請求権を行使し、調停や訴訟についても、財産分与の行使の部分について受継することになります(破産実務Q&A220問参照)。

 
 

      • 慰謝料について

 

        • 慰謝料については、一般的に、慰謝料の金額が確定した場合、行使上の一身専属性が失われると考えられているため、破産管財人が慰謝料相当額を受け取り破産財団に組み入れることになります。

 

        • ただし、先に述べた離婚に伴う財産分与と同様に、慰謝料を請求することの確定的意思を外部に表明した段階で、行使上の一身専属性が失われるとする考え方もあります。

 
 

      • 養育費について

 

        • 養育費については、原則として、破産財団に組み入れられるものではありませんが、破産手続開始前に一括払いの受け取りの約束をしていた養育費については、破産管財人により破産財団に組み入れられます。

 
 
 
 

    • 2.破産手続開始時点で財産的給付を既に受け取っている場合

 

      • 破産手続開始前に離婚に伴う財産分与や慰謝料等を既に受け取り、破産手続開始時点で預貯金等の他の財産に形式を変えていた場合、自由財産の範囲の拡張の問題となります。