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免責不許可事由

 

免責不許可事由の詳細

自己破産手続に関し、もっとも大きな関心事の一つは、自身が免責されるかどうかということにあると思います。
支払不能に陥っている場合(支払停止をした場合は支払不能にあたると推定されます)に、破産手続開始の申立てをすると、破産手続が開始されますが(破産法15条)、同時に、免責許可の申立てをしたものとみなされます(破産法248条4項)。
この場合、裁判所は、破産法252条1項に定める免責不許可事由がない場合、免責許可の決定をすることになります。
 
免責不許可事由のうち、実務上特に問題となるものとして、以下のような事由が挙げられます。
 
 

1.不当な破産財団の価値減少行為 

  
破産財団の価値を不当に減少させる行為一般が対象とされます。具体的には、債権者を害する目的で、破産財団に属し、または属すべき財産を隠匿、損壊、債権者に不利益な処分(第三者に廉価販売する等)をする行為等が含まれます。
  
例えば、支払不能後に破産管財人に財産を秘匿して引き継がなかった場合や、破産財団に属する収益物件の賃料収入が入金される預金口座を申立書に記載しなかった場合等が該当します(東京地方裁判所平成24年8月8日決定参照)。
 
なお、債権者を害する目的について、廉価販売などの不利益処分については、単に資金繰りに迫られて行ったものではなく、債権者を害するという積極的な目的が必要とされています(東京高等裁判所昭和45年2月27日決定参照)。

2.著しく不利益な債務負担行為・処分行為

 
破産手続開始を遅らせる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担した場合や、信用取引で商品を購入して著しく不利益な条件で処分した行為が対象とされます。
 
例えば、資金繰りに窮し借入金の返済の目途が立たない債務者が、ヤミ金業者などの高利業者から借り入れを行った場合や、クレジットカードで商品(アクセサリー、電化製品、新幹線の回数券、ギフトカード等)を購入し、直ちに廉価で処分した場合(いわゆる換金行為)、いわゆる「クレジット枠の現金化」をした場合等が該当します。

3.非義務行為についての偏頗行為

 
債務者が特定の債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で弁済や担保供与を行い、当該弁済等がそもそも債務者の義務に属しないか、方法や時期が債務者の義務に属しない行為が対象とされます。
 
例えば、支払不能時期に、返済時期の約束がない親族からの借入に対し、全額弁済した場合が該当します。

4.浪費、賭博その他射幸行為による財産減少行為・債務増大行為

 
主に、過大な飲食(居酒屋、キャバクラ)や買い物(高級車、衣服等)、ギャンブル(競馬やパチンコ等)、投機行為(FX、先物取引等)等によって、著しく財産を減少させた場合や過大な債務を負担した行為等が対象とされます。
 
なお、浪費等が著しく財産を減少させた又は過大な債務を負担した行為に該当するか否かは、あくまで浪費等の時点における債務者の経済状況(財産・収入)を前提として、浪費等の程度が必要かつ通常の程度を超えたかにより判断されます。
そのため、債務者が継続的に安定した収入を得ている状況において、一時的にギャンブル等が行われたとしても、当該支出が保有財産や収入の範囲内のものにとどまり、その後に全く別の事情により債務を負担し、支払不能に陥った場合、免責不許可事由に該当しないことになります。 

5.詐術による信用取引

 
破産手続開始申立ての1年前の日以降に、破産手続の開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したことが対象とされます。
例えば、支払不能時期に、自らの負債の内容につき虚偽の事実を告げるなど、積極的な行為により、信用を誤信させ、借入れを行なうことが該当します。
 
なお、ここでいう「詐術」とは、一般的には、積極行為により相手方を誤信させることまで必要と考えられていますが、支払不能状態にあることを告知しない等の消極的態度によって相手を誤信させた場合でも「詐術」に該当するとした裁判例(仙台高等裁判所平成4年10月21日決定)もあります。

6.虚偽の債権者名簿の提出

  
債権者名簿(債権者一覧表を含みます)には、全ての債権者を記載しなければならず、債権者を害する目的で積極的に虚偽の債権者一覧表を提出したような場合には、免責不許可事由に該当します。
 
なお、過失により一部の債権者の記載を失念した場合、免責不許可事由には該当しませんが、その場合、免責許可決定が下りたとしても、当該債権者に対する負債について、原則として、免責の対象とされません(破産法253条1項)。

7.説明義務違反

  
裁判所からの調査に対して、説明を拒否したり、虚偽の説明をしたりする場合や、破産申立書や財産目録に事実と異なる記載をした場合、破産管財人による調査に正当な理由なく説明を拒否した場合には、免責不許可事由に該当します。

8.再度の免責許可の申立て

 
過去に免責許可決定を受け、その免責許可決定の確定日から7年以内に再度免責許可の申立てをした場合、免責不許可事由に該当します。
 
過去に免責許可決定を受けた債務者に対し、短期間のうちに再度免責許可決定を付与することは、債権者の同意を不要とする免責手続におけるモラルハザードを招来するおそれがあることから、免責不許可事由として規定されています。
 
一般的に、再度の免責許可の申立てについて、裁判所は、慎重に対応しており、破産管財人を付した上、債務者の免責について、厳格な調査を実施しています。

実際に免責不許可とされた事案の概要

東京地方裁判所破産再生部では、免責不許可事由がある場合でも、上記各事情を考慮し、裁量免責が認められる事案が多いと思われますが、他方で、免責不許可とされる事案も散見されます。
 
また、明らかに免責不許可相当の事案であることを前提として、破産管財人と破産者との協議により、破産者から免責の申立て自体が取り下げるという事案も散見されます。
 
実際に、東京地方裁判所破産再生部で免責不許可とされた事案としては、以下のようなものがあります(『判例タイムズ1403号「東京地裁破産再生部における近時の免責に関する判断の実情(続)平井 直也」』参照)。

1.不当な破産財団価値減少行為(破産法252条1項1号)を理由に免責不許可とされた事案

 
 

      • 破産手続開始後に、国税還付金を、申立代理人に無断で開設した口座に入金させ破産管財人に秘匿のまま費消した事案

      • 破産手続開始後に、美術品等を隠匿し一部を回収不能にした事案

      • 支払不能後に、不動産や保険解約返戻金を親族に仮装譲渡した事案

      • 支払不能後に、不動産や現金を妻に贈与した事案

      • 生命保険解約返戻金につき、破産管財人の指示に反し、契約者貸付を受け費消した事案

      • 破産手続開始後に、破産管財人に秘匿の腕時計を売却し、代金を隠匿した事案

      • 破産手続開始直前に、破産者が自身の給料を他人の口座に入金させて隠匿した事案

  
不当な破産財団価値減少行為に当たる行為がみられる事案での免責の判断に当たっては、主に、隠匿等の対象財産が高額であるか否か、隠匿等の時期(支払不能後や手続開始決定後か)、破産管財人の指示に反したか、最終的に換価不能となったかが考慮されています。

2.著しく不利益な債務負担行為・処分行為(破産法252条1項2号)を理由に免責不許可とされた事案

 
 

      • 破産者が、弁護士に債務整理を委任後、申立ての準備に協力しないで放置しながら、換金目的で携帯電話機を購入し、廉価売却した事案

 
当該事案では、債権者名簿に自営業関係の債務を記載せず、破産管財人に対し虚偽の説明をしたことも考慮されています。

3.非義務偏頗行為(破産法252条1項3号)を理由に免責不許可とされた事案

 
 

      • 破産者が支払不能後、多額の借入を行ない、一部の破産債権者のみに、弁済期前に多額の弁済をした事案

      • 破産者が、特定の債権者をあえて債権者一覧表に記載せず、破産手続開始後、当該債権者に多額の弁済を行なった事案 

4.浪費、賭博その他射幸行為による財産減少行為・債務増大行為(破産法252条1項4号)を理由に免責不許可とされた事案

 
 

      • 破産者が弁護士に債務整理を依頼後に個人から多額の借入をして全額費消した事案

      • 弁護士に債務整理を委任後にキャバクラ等の費用として現金を費消した事案

      • 海外でのカジノで多額の金員を費消した事案

      • 株式信用取引及びFX取引により多額の損失を出し破産手続開始決定後もFX取引を継続した事案

      • 勤務先から横領した現金のほぼ全額を競馬及びパチンコに費消した事案

      • 勤務先から横領した多額の現金を株式投資に費消した事案

      • 破産申立後も多額の費消行為をした事案

      • 多数の投資家から募った出資金を横領し費消した事案

5.詐術による信用取引(破産法252条1項5号)に関して免責不許可とされた事案

 
 

      • 無職である破産者が勤務先の賞与及び退職金から返済可能であると欺罔して多額の金員を借入れ破産申立書に当該事実の記載をしなかった事案

      • 十分な価値を有する株式を保有すると欺罔して多額の金員を借入れた事案

6.虚偽の債権者名簿の提出(破産法252条1項7号)に関して免責不許可とされた事案

 
 

      • 破産者が特定の債権者を破産手続から除外する目的で、破産申立てを行ない、債権者一覧表に記載せず、破産管財人にもその存在を秘匿した事案

7.説明義務違反・破産手続上の義務違反(破産法252条1項8号、同項11号)に関して免責不許可事由とされた事案

 
 
 

      • 所有していた自動車の処分について、破産管財人に虚偽の説明をした事案

      • 不動産(収益物件)の所有を隠して破産申立てを行い、破産管財人に対し、不動産を所有していないと虚偽の説明をした事案

      • 退職金が入金された口座の存在、退職後の店舗を借りて事業をしていたことを破産申立書に記載しなかった事案

      • 一部の債権者に返済したが、当該債権者の氏名を破産管財人に説明を拒絶した事案

      • 不動産の売却代金の使途について、曖昧な説明をし、破産管財人との打ち合わせを正当な理由なく応じなかった事案

      • 債権者集会を無断で欠席し、破産管財人との打ち合わせも無断で欠席し、個人債権者の情報の開示を拒絶し、裁判所の許可を得ず海外渡航をした事案

      • 破産手続開始後、破産管財人に説明せず、退職し退職金を受領し、当該退職金の一部を知人に贈与し、裁判所の許可を得ず5回海外渡航した上、転居した事案

      • 破産管財人に対し、親族名義の口座から引き出した使途を説明せず、自己名義の口座を隠匿し、給与明細書を偽造して収入につき虚偽の説明をした事案

      • 破産管財人に対し、生活実態のない場所を住所として申告し、代表者を務めていた法人について十分に説明しなかった事案

      • 破産申立前に、高額の金銭を費消したが合理的な説明をせず、預貯金口座についての説明を破産管財人から求められたが申告しなかった事案

 
 
 
説明義務違反など破産手続上の義務違反を理由として免責不許可とされた事案は多岐に渡りますが、当該行為は、破産管財人による資産調査や否認権の行使等を困難とする行為であり、破産手続に与える影響の程度が大きいことから、裁判所として厳格に対応しているものと思われます。

8.再度の免責許可の申立て(破産法252条1項10号)を理由に免責不許可とされた事案

 
 
      • 前回の免責確定した後2年9か月後に免責許可(破産手続)が申し立てられたが、他の免責不許可事由がない事案

 
 
 
再度の免責許可の申立てがされた案件について、裁判所は、破産管財人を付し、厳格な調査をさせる傾向にあります。その際、前回の免責確定後の期間の長短、浪費等他の免責不許可事由の有無、今回の債務増大の経緯(前回と同様の理由によるものか否か)、裁量免責を認めなければ過酷である特段の事情があるかが考慮されています。