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破産管財人の否認権

 

否認権とは

破産手続開始決定前に破産者の財産が不当に流出・減少する等、債権者を害する行為があった場合、当該行為の効力による不都合を解消しなければ、配当原資が減少し、すべての債権者の利益が害されます。
 
また、破産者により特定の債権者のみに弁済がされる等、特定の債権者に便宜が図られると債権者平等の原則に反することとなり、破産手続の目的である債務者の財産等の適正かつ公平な清算(破産法1条)を実現することができなくなります。
 
そのため、破産法は、破産管財人に対し、破産手続開始前にされた財産の流出・減少行為や一部の債権者への弁済の効力等を否定し、破産財団を原状に回復させる権利である否認権を行使することを認めています(破産法160条以下)。
 
否認権の対象となる行為には、①破産財団を構成すべき財産を直接減少させて全ての債権者の利益を害する行為(破産法160条)と、②特定の債権者が優先的に弁済を受けて債権者間の平等を害する偏頗弁済(破産法162条)があります。

1.破産財団を構成すべき財産を直接減少させて全ての債権者の利益を害する行為について

 
 
    • 破産者が債権者を害することを知ってした財産減少行為

 
      • 破産者が債権者を害することを知ってした財産減少行為(弁済等債務の消滅に関する行為を除きます。)について、行為の相手方が債権者を害することを知らなかった場合を除き、否認の対象とされます(破産法160条1項1号)。

 
      • 財産減少行為とは、自己所有物を適正な価格よりも廉価な金額で売却する行為や自己所有物の所有名義移転する行為等をいいます。

 
      • また、破産者が債権者を害することを知ってした行為であることが要件とされていますが、財産減少行為の当時、既に破産者が支払不能に陥っていた場合はもちろんのこと、財産減少により破産者が支払不能に陥った場合にも当該財産減少行為は、本条の否認の対象となります。

 
      • 例えば、破産者が返済に窮していたが、唯一の財産である不動産を親族に譲渡したことにより支払不能に陥った場合、破産者が債権者を害することを知ってした財産減少行為として、否認の対象とされます。

 
      • なお、支払不能に陥ることが確実に予想される状態で財産減少行為がなされた場合には、当該財産減少行為により支払不能にさらに近づいたと評価できるときには、債権者を害する行為として、否認の対象とされることがあります。

 
 
    • 支払停止後にした破産債権者を害する行為

      • 破産者が支払停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為について、否認の対象とされます(破産法160条1項2号)。破産法160条1項1号の否認の要件と比べると、支払停止後の行為であることから要件が緩和されています。

      •  

      • 例えば、破産者が支払停止後、不動産を親族に廉価で売買した場合、破産者を害する行為として、否認の対象とされます。

 
 
    • 支払停止前6か月以内にした無償行為

 
      • 破産者が支払いの停止等があった後又はその前6か月以内に無償行為等は否認の対象とされます(破産法160条3項)。

 
      • 例えば、破産者が支払停止の前6か月以内に、不動産を親族に譲渡した場合、否認の対象とされます。

 
      • なお、破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為について、支払停止を理由とする否認はできませんが、無償行為については、破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為であっても、支払停止を理由とする否認が認められています(破産法166条)。

 
 

2.特定の債権者が優先的に弁済を受けて債権者間の平等を害する偏頗弁済について

 
 
    • 支払不能後の偏頗弁済

 
      • a 破産者が支払不能後にした弁済や担保供与は、債権者が破産者の支払不能や破産手続開始の申立てがあったことを知っていた場合、否認の対象とされます(破産法162条1項1号)。

 
        • 例えば、破産者が支払不能に陥った後、当該支払不能を知っていた友人に借入金50万円を弁済した場合、支払不能後の偏頗弁済として否認の対象となります。

 
      • b 支払不能について

 
        • 特定の債権者への弁済(偏頗弁済)が否認の対象となるためには、弁済の時点で、破産者が支払不能に陥っていたことが要件とされています。支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、弁済期にある債務につき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます(破産法2条11号)。

 
        • 破産申立ての依頼を受けた代理人弁護士から、債権者宛の受任通知が送付される等支払停止があった後は、支払不能と推定されるので(破産法162条3項)、その後になされた特定の債権者への弁済は、支払不能後の偏頗弁済として、否認の対象とされます。

 
        • 実務上問題となるのは、債務者が返済に窮しているものの、支払停止がない時期に、特定の債権者への弁済がされた事案です。この場合、弁済の時点で、破産者が既に支払不能に陥っていたといえるかどうかが争点となります。

        • この点、支払不能といえるためには、必ずしも債務者が債務不履行に陥ることまでは要しませんが、債務者が、収入や信用による貸付によっても、各債務の弁済原資が確保できないことが確実となった場合など、弁済期の到来した債務を一般的かつ継続的に支払えなくなったことが確実になったことが必要と考えられています。

 
        • 例えば、債務者が弁済の当時債務超過であっても、各債務の履行期までに、収入を得たり、支払能力を前提とする貸付を受けたりすることにより、弁済原資が確保されることが見込まれる場合には、いまだ支払不能とはいえません。

        • 他方で、弁済が継続していたとしても、債務者が無理算段をしているような場合、すなわち全く返済の見込みの立たない借入れや商品の投げ売り等によって延命を図っているような状態にある場合には、支払不能と認められることがあります(高松高等裁判所平成26年5月23日判決)。

 
      • c 支払不能を知っていたことの推定

 
        • 特定の債権者への弁済(偏頗弁済)が否認の対象となるためには、債権者において、その弁済の当時、債務者の支払不能を知っていたことが要件とされていますが、破産会社の役員等、破産者の親族や同居人は、支払不能等を知っていたものと推定されます(破産法162条2項破産法161条2項)。

 
 
      • 非義務的偏頗行為

 
      • 破産者の義務に属せず又はその時期が破産者の義務に属さない弁済や担保供与が支払不能になる前30日以内にされた場合、否認の対象とされます(破産法162条1項2号)。

      • 例えば、破産者が、支払不能に陥ることが想定される状況において、親族から返済期限の定めのない借入金を弁済し、その30日後に支払不能に陥った場合、非義務的偏頗行為に該当するものとして、否認の対象となります。