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同時廃止と管財事件について

 

同時廃止と管財事件の関係性

破産手続の進行には、破産管財人が選任される管財事件と、破産管財人が選任されることなく、その調査を経ない同時廃止があります。
 
破産法は、管財事件を原則としており(破産法31条1項本文)、同時廃止は、「破産財団をもって破産手続費用を支弁するのに不足する」ときに認められる例外的な手続とされています(破産法261条1項)。
 
そもそも、破産手続は、支払不能に陥った債務者の財産等の適正かつ公平な清算を目的とするものであるため(破産法1条)、原則として、破産管財人を選任して、破産財団の換価業務、破産債権の確定を経た上、適正かつ公平な配当手続を実現すべきと考えられます(破産法31条1項本文)。
 
しかし、破産手続の開始時点で、破産財団に属すべき財産が僅少であり、手続費用に不足すると認められる場合にまで、破産管財人を選任するということは、(免責調査の必要性は別として)債権者への配当にのみ着目すると無意義であるため、例外的に、破産手続の開始と同時に破産手続を廃止すること(同時廃止)が規定されています。

同時廃止と管財事件の振り分けについて

破産手続を申し立てた場合、同時廃止と管財事件のどちらに振り分けられるかは、裁判所が判断することになりますが(破産法216条1項)、管財事件に振り分けられた場合、債務者には、破産管財人の具体的な調査を経るという手続上の負担と、破産管財人への引継予納金(最低20万円)等の費用上の負担が生ずるため、一般的には、同時廃止での進行を望むことが多いものと思われます。
 
同時廃止と管財事件の振り分けについて、東京地方裁判所破産再生部では、主に、以下の各事情により判断されています。
 

    • 1.33万円以上の現金の有無

 

      • 破産手続開始決定時点において、33万円以上の現金を保有している場合、管財事件に振り分けられます。

 

      • 自由財産の範囲の拡張の基準が99万円以下の現金とされていますが、管財事件と同時廃止の振り分けの基準としては、33万円以上の現金を保有しているか否かが基準とされていますので注意が必要です。

 
 
 

    • 2.20万円以上の換価対象資産の有無

 

      • 破産手続開始決定時点において、以下の個別の項目ごとに、20万円以上の換価対象資産がある場合、少額管財手続の最低予納金20万円を支出できる見込みがあることから、管財事件に振り分けられます。

 

      • 以下、具体的にみていきます。

 
 

      • 残高が20万円以上の預貯金

 

        • 破産手続開始決定時点において、すべての預貯金口座の残高を合計した金額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

 
 

      • 支給見込額の4分の1相当額が20万円以上の未払賃金

 

        • 賃金について、4分の1相当額が差押え可能とされていますので(民事執行法152条1項)、未払賃金の4分の1相当額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

 
 

      • 支給見込額が20万円以上の未払報酬金債権 

 

        • 役員報酬金や委任契約に基づく報酬には、差押禁止の規定がないため、20万円以上の未払報酬がある場合、管財事件に振り分けられます。

 
 

      • 支給見込額の8分の1相当額が20万円以上の退職金債権

 

        • 退職金債権については、原則として、自己都合退職による支給見込額の8分の1相当額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられますが、既に退職した場合又は近い将来退職予定の場合、支給見込額の4分の1相当額が20万円以上であるか否かが基準とされます。

 
 

      • 20万円以上の貸付金・売掛金債権

 

        • 貸金・売掛金の合計額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

          なお、売掛金等については、回収可能性が乏しい場合もあるので、回収可能性も考慮したうえで、20万円以上か否かを判断されます。

 
 

      • 20万円以上の積立金等

 

        • 社内積立や財形貯蓄、事業保証金等の合計額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

 
 

      • 見込額が20万円以上の保険解約返戻金

 

        • 保険の解約返戻金の合計額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

 
 

      • 20万円以上の有価証券

 

        • 有価証券の合計額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

 
 

      • 処分見込価額が20万円以上の自動車

 

        • 処分見込価額が20万円以上の自動車を保有する場合、管財事件に振り分けられます。

 

        • なお、東京地方裁判所破産再生部では、原則として、減価償却期間(普通乗用車は6年、軽自動車・商用車は4年)を経過している場合は、無価値として取り扱われています(『破産管財の手引き(第2版)』36頁』)。)

 
 

      • 不動産

 

        • 不動産は、一般的に、20万円以上の換価価値があると考えられることから、不動産を保有している場合、原則として、管財事件として扱われます。

 

        • しかし、被担保債権額が不動産の価額を1.5倍以上超過している場合(1.5倍以上のオーバーローン)の場合、同時廃止と管財事件の振り分けの判断にあたって、資産として評価しない取り扱いがされています。

 
 

      • 20万円以上の相続財産

 

        • 相続財産の処分価額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

 

        • 相続財産には、遺産分割未了のものも含みますので、過去の相続について、遺産分割協議書等の資料の有無が重要となります。)

 
 

      • 20万円以上の事業設備、在庫、什器備品

 

        • 個人事業者(過去に個人事業者であった人を含みます)の事業設備、在庫、什器備品等の合計額が20万円以上の場合、管財事件に振り分けられます。

 

        • この点、個人事業者については、什器備品の内「技術者、職人等の業務に欠くことができない器具」(民事執行法131条6号)について、差し押さえが禁止された財産として、換価の対象外とされていますので(破産法34条3項2号)、同時廃止と管財事件の振り分けにあたっては、什器備品が換価対象となるか否かを考慮して、判断されます。)

 
 

      • 破産管財人の調査によっては回収が可能となる20万円以上の財産

 

        • 破産管財人の調査によって回収可能となる財産とは、例えば、不当な財産の流出があった場合に、破産管財人による否認権行使の対象となる財産があげられます。

 
 

      • 処分見込価額が20万円以上の自動車

 

        • 処分見込価額が20万円以上の自動車を保有する場合、管財事件に振り分けられます。

          なお、東京地方裁判所破産再生部では、原則として、減価償却期間(普通乗用車は6年、軽自動車・商用車は4年)を経過している場合は、無価値として取り扱われています(『破産管財の手引き(第2版)』36頁』)。) 

 
 
 
このように、同時廃止と管財事件の振り分けにあたっては、上記の換価対象財産の有無が問題となりますが、その際、自由財産の範囲の拡張を前提として、同時廃止に振り分けるという扱いは認められません。法律上、裁判所が破産管財人の意見を聴いた上で、自由財産の範囲の拡張を決定することが明記されているからです(破産法34条5項)。
 
例えば、破産手続開始決定時点において、債務者が、預貯金50万円を保有しているものの、収入が乏しい事案について、自由財産の範囲の拡張が見込まれることを理由として、20万円以上の換価対象財産がないと考え、同時廃止に振り分けられるという取り扱いはされていません。
 
 
 

    • 3.法人及び法人代表者、個人事業者の場合

 

      • 東京地方裁判所破産再生部では、法人について、財産状況の把握が困難であることから、管財事件として扱われています。

 

      • また、法人の代表者や法人の元代表者も、法人に対する事業資金の貸付や株式等の資産を保有していることが多く、法人の会計帳簿の検討等の資産調査が必要となることから、同様に管財事件として扱われています『破産管財の手引き(第2版)』80頁以下)。

 

      • 個人事業を営んでいる人についても、事業に伴う什器備品や売掛金等の資産が形成されることがあること、過去に個人事業を営んでいる人に ついても、過去の事業に伴う什器備品等の資産が残っている蓋然性があることから、原則として、管財事件として、扱われています。

 

      • ただし、事業者であっても、一社専従の業務に従事する等雇用に近い形態で報酬を得ており、給与の変動も少なく、事業用の資産もなく、債務増大の要因が生活費の補填によるものである場合、例外的に、同時廃止に振り分けられることがあります。

 
 
 

    • 4.免責不許可事由がある場合

 

      • 免責不許可事由がある場合、破産管財人の免責調査を経るのが相当ですので、原則として、管財事件に振り分けられます。

 

      • しかし、免責不許可事由が存在しても、①免責不許可事由の程度が軽微であり、②負債総額が多額ではなく、③債権者の厳しい意見がなく、④申立代理人により十分に調査・説明を尽くされた場合、免責調査のために破産管財人を付す必要がないと判断され、例外的に、同時廃止に振り分けられる場合もあります(『破産管財の手引き(第2版)』39頁)。

 

      • 例えば、債務者にFXやパチンコなどを要因とした負債がある場合、破産法252条1項4号所定の免責不許可事由が存在するといえまずが、①FXやパチンコによる費消金額が400万円程度にとどまること、現在は、FXやパチンコを含む浪費行為をしていないこと、②負債総額が300万円程度にとどまること、③免責についての債権者の厳しい意見がないこと、④当該各事情について、疎明資料を収集・提出し、裁判所への説明が尽くされ、破産管財人の調査を経る必要がないと認められた場合、同時廃止に振り分けられることがあります。

 

      • なお、東京地方裁判所破産再生部では、免責不許可事由のうち、免責許可決定の確定の日から7年以内の再度の免責許可の申立て(破産法252条1項10号)がある場合、例外なく管財事件として扱われています(『破産管財の手引き(第2版)』39頁)。

申立代理人による説明の必要性

管財事件が原則とされている以上、同時廃止で申立てを行う場合、申立代理人としては、20万円以上の換価対象財産がないこと、免責不許可事由がないこと、又は、免責不許可事由があってもそれが軽微であることを積極的に説明する必要があります。
 
一般的に、「ないこと」を疎明することが困難であることや、そもそも提出可能な資料に乏しく、管財事件に付される場合もありますが、申立代理人の調査不足や説明不足を理由として、破産管財人による調査が必要と判断され、管財事件に振り分けられる事案も散見されるようです。
 
申立代理人としては、同時廃止が相当と思われる事案では、疎明資料を収集し、破産管財人の調査が不要であるといえる程度に、積極的な調査と説明を尽くし、裁判所の判断を仰ぐのが適切と考えられます。