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個人事業主の自己破産

 

個人事業継続の可否について

自己破産手続は、清算的手続ですので、個人事業主であっても、破産手続開始時に事業を営んでいた場合、原則として、廃業することとなります。
 
しかし、個人事業が一定の収益をあげており、既存の債務が免責されれば、当該収益により生計を維持することが可能な場合には、事業を継続することにより生活を再建することが望ましいといえ、個人事業の継続を選択することも可能です。
 
具体的には、一人親方の場合や、経費が嵩まない業態の小規模な個人事業を営んでいる場合、年齢等により他の職業に転職することが困難な事情がある場合には、生計の維持のために、個人事業を継続する必要性が高いと考えられます。

個人事業者の財産の換価

什器備品

  
個人事業者の什器備品については、個人の破産の換価基準に従い、自由財産として認められる財産以外については、換価の対象(破産財団と換価基準について)とされます。
 
個人事業者については、什器備品の内「技術者、職人等の業務に欠くことができない器具」(民事執行法131条6号)について、差し押さえが禁止された財産として、自由財産として扱われ、換価の対象外とされています(破産法34条3項2号)。
 
「技術者、職人等の業務に欠くことができない器具」とは、例えば、大工及び左官の道具類、理容師の利用器具、薬剤師の薬剤調合器具、理容師の利用器具等が該当し、これらの什器備品は、差押禁止に該当することから、自由財産であり、換価の対象外と考えられます。
 
裁判上、開業医の什器備品について、内科医のレントゲン撮影機については、業務に不可欠なものとして、差押禁止に該当すると判断されましたが(東京地方裁判所八王子支部昭和55年12月5日決定)、眼科医のレーシック手術に使用するレーザー治療台については、当該機器が特別の機械に該当するということ等を重視し、差押禁止財産に該当しないと判断されました(東京地方裁判所平成10年4月13日決定)。
 
なお、什器備品について、処分に要する費用が売却金額を上回る見通しである場合等、換価価値がないと管財人が判断した場合、破産財団から放棄されることもあります。その場合、当該什器備品については、自由財産として扱われ、自由に使用を継続することができます。
 
また、差押禁止財産に該当せず、かつ、換価価値のある什器備品であっても、破産管財人の意見を聴き、破産者自身の自由財産からの現金や親族等の第三者の援助金によって、当該什器備品相当額の破産財団への組入れを行なうことで、破産財団から放棄され、自由に使用を継続することが可能な場合もあります。
 
 

売掛金 

 
破産手続開始決定時に未回収の売掛金は、原則として、破産管財人による換価の対象となります。
 
この点、破産手続開始決定前に、締日が到来し未回収の売掛金については、換価の対象となりますが、破産手続開始決定前に売掛金の締日が到来していなくても、破産手続開始決定前の委託業務役務の提供等をした部分に対応する売掛金相当額を算出することが可能な場合には、当該相当部分について、換価の対象となります。
 
例えば、
 
売掛金の締日が毎月末日、支払日が翌月末の個人事業者について、令和2年8月15日に破産手続開始決定がされた場合
 
a. 締日到来済みの令和2年7月1日~7月31日分の売掛金
b. 締日未到来の令和2年8月1日~8月14日分の業務に対応する売掛金
 
の両方が換価の対象となります。
 
このように、個人事業者においては、売掛金が換価の対象となりますが、当該売掛金が生活に必要な場合、自由財産の範囲の拡張の申立てを検討することになります。
 
 

商品

 
個人事業者の保有する商品は、差押禁止財産に該当しないため(民事執行法131条6号括弧書)、破産手続開始決定時点の商品は、破産管財人の換価の対象となるのが原則です。
そのため、商品が陳列棚からなくなると、事業の継続に支障が生じる場合等には、破産管財人の意見を聴きながら、破産管財人が商品を換価することを想定した一定の金額につき、親族等の第三者からの援助によって、破産財団への組み入れを行い、当該商品について、破産財団から放棄してもらうことを検討することもあります。
 
 

リース物件

 
事業で使用しているリース物件(複合機、重機器、精密機器、車両等)がある場合、弁護士が受任し、破産手続の準備段階に入った後には、債権者であるリース業者が引き揚げを要求してきます。
 
そのため、当該リース物件が引き揚げられても、事業が継続できるか検討しておく必要があります。
 
また、リース物件であるパソコン等に、破産手続の準備や破産管財人の業務に必要な債権者や取引先、キャッシュフローに関するデータが入っている場合、引き揚げられる前にUSB等の媒体にデータの保存しておく必要があります。
 
 
なお、支払停止後にリース債権者に支払いをすることは、偏頗弁済に該当し、破産手続開始後、破産管財人に否認されるおそれがあります。
 
また、親族等第三者の援助により、リース債権者に対し、残リース相当額の支払いをし、リース物件を買い受けた場合でも、破産者の財産として扱われるため、破産手続開始後、換価の対象(破産財団と換価基準について)となることがあります。
 
 

事業取引の保証金

 
取引基本契約等により、取引先に差し入れている取引保証金についても、破産手続開始前の原因に基づいて行うことがある将来の請求権(破産法34条2項)に該当するので、破産管財人による換価の対象となります。
仮に、事業の継続に支障を来すことが懸念される場合、破産管財人と協議の上、親族等の援助や自由財産の範囲内の拠出により、取引保証金相当額を破産財団に組入れることで、取引先への直接換価作業を回避する方法も検討する必要があります。
 
 

事業用の自動車

 
換価見込価額が20万円を超える自動車については、換価の対象(破産財団と換価基準について)となります。
 
事業の継続に自動車が必要な場合、親族等の第三者からの援助や破産者の自由財産からの拠出によって、換価対象となる自動車の売却代金相当額につき、破産財団への組入れを行ない(当該自動車の管理処分権限を有する破産管財人から直接購入する)、当該自動車の使用を継続することや、破産管財人の意見を聴いた上、破産者が自由財産からの拠出により別途20万円以下の安価な自動車を購入したり、レンタカーへ切り替えたりすることを検討する必要があります。

事業用賃借物件(テナント)と保証金・敷金について

事業に賃借物件を使用している場合、事業用賃借物件の保証金・敷金については、居住用家屋の敷金と異なり、破産財団を構成し、換価の対象(破産財団と換価基準について)となります。
 
事業用賃借物件の賃借権について、破産管財人が管理処分権を有しているため、破産管財人において、当該賃貸借契約を解除し(破産法53条)、賃貸人との協議により、未払賃料と原状回復費用に保証金・敷金を充当し、保証金・敷金の換価を図るとともに、明け渡しを実施することが一般的です。
 
そのため、破産手続開始後、事業用賃借物件を維持することは困難です。
 
事業の継続に営業所が必要な場合、お住まいの住居で営業活動ができないか(住居兼店舗)等を検討する必要があります。

買掛先について

破産手続開始決定時の買掛金(未払いの仕入代金)は、破産手続上、破産債権に該当します。破産債権である以上、免責の対象にもなりますし、一部の債権者への弁済は、偏頗弁済(破産法162条1項)に該当し、破産管財人により否認されますので、開始決定時に仕入代金があると、弁済ができなくなります。
 
破産をする予定がある中、掛け払いで仕入れを行ない、最終的に、仕入先が破産債権者として扱われて、免責の対象とされることは、望ましい状況ではなく、結果的に詐欺的な借入すら疑われるおそれもあります。
 
掛け払いで仕入れていた場合、このような状況に陥らないために、現金決済(又はそれと同視できる支払方法)に変更する必要があります。

過去の取扱実績

当事務所に所属する弁護士が、倒産事件に携わった主な事業者の業種は、以下のとおりです。
 
 
建設業者(多数)、製造業者(多数)、運送業者(多数)、内装業者(多数)、リフォーム業者(多数)、プラスチック製品成形加工工場、金属加工工場、電子計測器販売製造業者、自動車修理業者、花屋、米屋、パン屋、材木屋、縫製業者、洋服屋、アクセサリーショップ、八百屋、電気工事業者、整骨院、厨房機器販売業者、ラーメン屋、スナック、IT事業者、システムエンジニア、プログラマー、アフィリエイト業者、データ入力業者、建築資材販売業者、教材販売業者、WEBセミナー講師、通信販売業者、塗装業者、とび職、大工、水道機器販売業者、薬品販売業者、医療機器販売賃貸業者、治験業者、新聞販売業者、ブリーダー、ラベル印刷製造業者、風俗店、ペット用品販売業者、パチンコ景品問屋その他