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自由財産の範囲の拡張

 

自由財産の範囲の拡張

自由財産とは、破産財団に属さない財産、つまり破産管財人の換価対象となる財産以外の財産をいい、破産者が自由に管理及び処分することができます。
 
この自由財産は、法律により自由財産とされる財産と、裁判所の運用上一定の換価基準に従って自由財産として認められる財産がありますが、それ以外にも、破産者の個別具体的な事情を考慮すると、自由財産の範囲を拡張する必要性が高いと考えられる場合があります。
このような場合、主に、破産者の申立てにより、破産管財人の意見を聴いた上で、裁判所が自由財産の範囲の拡張を決定します(破産法34条5項)。
 
東京地方裁判所破産再生部では、法律上の自由財産とは別に、一定の財産について、原則として、あらかじめ自由財産の範囲の拡張の決定があったものとし、破産管財人の換価の対象外の財産として取り扱われています。
(横浜地方裁判所管轄の各裁判所でも概ね同様の換価基準が採用されていますが、直前現金化の取扱いに差がみられます。)
 
なお、この自由財産の範囲の拡張は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後1か月を経過する日までの間になされるとされています(破産法34条4項)。

自由財産の範囲の拡張が認められる事情

自由財産の範囲の拡張が認められるか否かについて、具体的には、以下の各事情を総合的に判断して決定されます(破産法34条4項)。
 
 

「破産者の生活の状況」

 
破産者の年齢、病気の有無、家族構成、特に必要な費用の有無等、破産者の生活状況が基準とされます。
具体的には、破産者が高齢や病気等により就労の見込みがないが扶養家族がいる場合や、破産者に数か月以内に養育する子の学費の支出が見込まれるが配偶者等の収入によりこれを捻出することが困難な場合には、自由財産の範囲の拡張が認められる方向に作用します。
 
 

「破産者が有していた…財産の種類及び額」

 
破産者が、法律上または運用上の自由財産となる現金や預貯金をほとんど保持していない場合など、自由財産の範囲を求める財産以外に生活に当て込むことが可能な資産が少ない場合には、自由財産の範囲の拡張が認められる方向に作用します。
 
 

「破産者が収入を得る見込み」

 
破産者が継続的かつ安定した収入を得ているかどうかが基準とされます。
破産者の収入が少額にとどまる場合や、破産者が日雇いによる収入のみにより生計を立てている場合など極めて不安定な場合、自由財産の範囲の拡張が認められる方向に作用します。
 
 

 その他の事情

 
その他の事情としては、特に自由財産の範囲の拡張を求める財産の種類・金額があげられます。
自由財産の範囲の拡張を求める財産が、破産者の当面の生活に充当する目的で保有していた財産、例えば、給与や年金収入を原資とする預貯金であった場合、自由財産の範囲の拡張が認められる方向に作用します。
 
これに対し、自由財産の範囲の拡張を求める財産が、株式や学資保険等、当面の生活に必ずしも不可欠とはいえない場合、自由財産の範囲の拡張が認められにくいといえます。 
 
自由財産の範囲の拡張を求める財産については、各財産に応じ、以下の事情が考慮されることが多いです。
 

      • ① 預貯金

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      • 預貯金は、流動性が高く、現金と同様に扱われることが多いことから、比較的自由財産の範囲の拡張が認められやすい財産です。

      • 特に、給与や年金を原資とする普通預金の場合、自由財産の範囲の拡張が認められやすい傾向があります。

      • しかし、定期預金や、普通預金であっても学資保険等の解約返戻金を原資とする預金の拡張を求める場合など、当面の生活に必ずしも不可欠な財産の拡張を求めるものと判断されにくい場合、拡張が認められないこともあります。

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      • ② 売掛金や報酬金

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      • 破産者が自営業者等である場合、破産手続開始決定時に発生している売掛金や報酬金については、本来、破産財団を構成しますが、当該売掛金が、概ね同一の元請業者から支払われており破産者の唯一の生活の糧であることや、給与取得者の給与と同視できるものか、売掛金の金額が高額ではないか、当該売掛金等以外に破産者が当面の収入を得る方法がないか、今後の収入の見通し等の各事情を考慮して、自由財産の範囲の拡張が認められることがあります。

      • なお、東京地方裁判所破産再生部では、破産手続開始決定時に既に回収済みの売掛金等については、破産手続開始決定時の財産の形態に従い、現金や預貯金として取り扱い、換価対象となるか否かを検討することが一般的です(ただし、横浜地方裁判所等では、直前現金化の取り扱いに差があります)。

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      • ③ 生命保険

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      • 解約返戻金が20万円を超える生命保険について、本来、破産財団を構成しますが、自由財産の範囲の拡張を求める保険の性質が医療保険であり、破産者が持病を抱えていたり高齢である等当該保険の加入を継続する必要性が高いが、同様の保険に再加入をすることが困難であるという事情がある場合には、自由財産の範囲の拡張が認められることがあります。

      • 他方で、自由財産の範囲の拡張を求める保険の性質が終身保険や積立金等貯蓄性が高いものである場合や、破産者が複数の保険に加入していて他の保険によっても医療費をねん出することが可能な場合、同様の保険に再度加入することが可能な場合などには、自由財産の範囲の拡張が認められない場合もあります。

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      • ④ 退職金8分の1相当額

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      • 退職金8分の1相当額が20万円を超える場合について、本来、破産財団を構成しますが、実際に退職するわけではないことから、破産管財人の監督の下、期間をかけて、積立てにより捻出することとなります。

      • しかし、勤務先の業績の悪化により以前より収入が落ち込んでいたり、病気等により、就労がおぼつかない状況にあるなど、退職金8分の1相当額の全額の積立てが困難な事情がある場合には、破産者が一定の範囲でのみ積立てを行ない、残額につき自由財産の範囲の拡張が認められることがあります。

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      • ⑤ その他

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      • 法律上、99万円以下の現金が自由財産とされている(破産法34条3項1号民事執行法131条3号同法施行令1条)こととの均衡から、自由財産の範囲の拡張を求める財産の合計金額が99万円以下の財産については、自由財産の範囲の拡張が比較的緩やかに認められています。

      • 例えば、破産者が開始決定時点において、現金50万円と預貯金30万円を保有していた場合、現金50万円について、法律上の自由財産に該当し、預貯金30万円については、本来、換価対象の財産となりますが、現金との合計金額が80万円であり、99万円以下にとどまるので、このような場合には、比較的緩やかに自由財産の範囲の拡張が認められています。

自由財産の範囲の拡張の重要性

自由財産の範囲の拡張は、その時の生活を左右する重要な手続きとなり得ます。
また、拡張の相当性については、裁判所が破産管財人の意見を聴いた上で判断をすることとなるので、依頼した弁護士(申立て代理人)が、破産管財人に対し、自由財産の範囲を拡張することの必要性と拡張しなかった場合の不都合性を積極的に説明してもらう必要があります。
さらに、管轄の裁判所によって拡張の運用が微妙に異なるため、当該制度の趣旨や各裁判所の運用を熟知していないと、自由財産の範囲の拡張が認められたとしても、想定よりも小さい範囲にとどまる場合もあり得ます。
 
多摩・相模法律事務所は、これまで、自由財産の範囲の拡張が認められた事案を多数取り扱っています。