小田急線町田駅徒歩1分 TEL:042-860-6457
 
新型コロナウイルス感染症対策を実施しています >> 対策の詳細

自己破産における裁量免責

裁量免責とは

 免責不許可事由破産法252条1項各号)が存在する場合でも、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができます(破産法252条2項)。これを裁量免責といいます。
 
破産手続においては、免責不許可事由が存在しても、上記裁量免責により免責許可決定を得るという事案が相当程度あります。
 
具体的には、裁量免責の判断においては、主に、以下の事情が考慮されます。
 
 

1.破産手続開始の決定に至った経緯

 
破産者の年齢、職業、収入、家族構成などの事情から債務増大に至る経緯が考慮されます。
 
例えば、高齢で、多くの扶養家族を抱え、収入が不安定であったことにより、主に生活費等で債務が増大したような事情があれば、裁量免責を相当とする方向に作用します。
 
  

2.免責不許可事由に関する事情

 
免責不許可事由の内容及び程度、行われた時期、破産財団に与えた影響等が考慮されます。
 
例えば、免責不許可事由の内容が競馬であり浪費(破産法252条1項4号)に該当するものであったとしても、費消した金額が高額ではなく、これにより増加した負債が少なく、破産財団へ与えた影響(債権者への配当原資となりうる財産の棄損の程度)も軽微であり、競馬に興じた時期が支払不能より以前であるという事情があれば、裁量免責が相当と判断されることがあります。
 
他方で、支払不能後、さらに破産手続開始決定後に、競馬に興じていたような事情がある場合、免責を不相当とする方向に作用します。
 
 

3.破産手続開始決定後の事情

 
免責不許可事由該当行為に対する破産者の反省の有無,破産者の破産手続に対する協力状況, 破産者の経済的再生の見込み等が考慮されます。
 
例えば、浪費行為を主要因として支払不能に陥った場合でも、破産手続開始決定後、破産管財人に対し、浪費の内容や程度を真摯に説明し、財産の換価業務にも積極的に協力し、反省文や誓約書を提出するなど反省の程度を示し、かつ、毎月の家計状況を提出することで経済的再生の見込みが十分と判断された場合などには、裁量免責が相当と判断されることがあります。
 
他方で、破産始決定後、破産管財人からの聴取に対し、免責不許可事由の存在そのものを隠していた場合や、前記のように浪費行為を継続した場合などには、免責を不相当とする方向に作用します。
 
なお、破産者は、裁判所や破産管財人が行う免責に関する調査に、協力する義務を負います(破産法250条2項)。
 
 

4.免責に関する債権者の意見の有無及び内容

 
一般的に免責による不利益を被るのは、債権者となります。そのため、債権者からの免責に関する意見が提出された場合、裁判所は、免責の判断について、慎重にならざるを得ません。
 
例えば、個人の債権者から、詐術を用いて多額の借入を行ない(破産法252条1項5号)、返済を一度もしていない場合などに、当該債権者から免責不許可の意見書が提出されることがありますが、そのような場合、破産管財人による厳格な調査を経た上、裁量免責が相当か否か判断されます。
 
なお、詐欺による借入による債権については、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権として、非免責債権(免責の対象とならない)に該当することもあります(破産法253条1項2号)。
 
  

5.免責を不許可とした場合の破産者の経済的再生の見込み

 
例えば、法人の負債につき、代表者個人が連帯保証した後、法人が支払不能に陥り、代表者個人に多額の負債(連帯保証債務)が残ってしまう場合があります。このような場合、代表者個人に軽微な免責不許可事由があるという一事をもって、多額の負債につき免責が許可されないこととなると、代表者個人の経済的再生に及ぼす影響があまりにも大きいとして、裁量免責を相当とする方向に作用する場合もあります。