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離婚原因
(民法770条1項各号)

 

民法770条1項各号の離婚原因

離婚は、夫婦双方が離婚することに合意していれば、離婚原因がどのようなものであっても成立しますが、一方が離婚に同意していない場合、調停や裁判をせざるを得ないケースも多くあります。
 
調停や裁判では、当事者だけではなく、調停委員や裁判官といった客観的視点から、離婚の妥当性について検討され、特に、裁判では、一方が離婚に同意していない場合でも、裁判官が離婚することが妥当であると判断すれば、離婚が成立することとなります。
 
そのため、裁判官が、当事者の主観にかかわらず、客観的な判断を下すための基準として、 民法770条1項各号に離婚原因を定め、その判断の妥当性を担保しています。
 
離婚調停では、これらの離婚原因は必要とされてはいないものの、あれば非常に重視され、離婚訴訟では、裁判官が離婚判決を下すために必要な事情とされています。以下、各号について説明します。
 
 

不貞行為(1号)

 
同号の「不貞な行為」とは、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいいます(最判昭和48年11月15日(民集27巻10号1323頁))。
 
不貞行為は、継続的なものか、一時的なものかは問いません。一方の配偶者が不貞行為を知りながら宥恕している場合、同号の「不貞行為」には該当しません(秋武憲一、岡健太郎編著『離婚調停・離婚訴訟【改訂版】』113頁)。
 
他方配偶者の不貞行為を理由として離婚を求める場合、離婚を求める方が他方配偶者の不貞行為の事実を主張立証する必要があります。
 
不貞行為の事実の立証方法としては、探偵を利用した写真や、他方配偶者が不貞行為の事実を認める発言(音声録音、メールやLINE)を証拠として提出することが挙げられますが、他方配偶者が言い逃れできないような証拠でないと、立証が困難である場合が多いです。
不貞行為の立証に至らない場合でも、異性との度を超えた親密な交際が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断される可能性はあります(秋武憲一、岡健太郎編著『離婚調停・離婚訴訟【改訂版】』113頁)。
 
 
 

悪意の遺棄(2号)

 
同号の「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく、同居・協力義務を履行しないことをいいます(窪田充見『家族法 第2版』95頁)。同居・協力義務を履行しないことについて正当な理由がある場合には、「悪意の遺棄」に該当しません(最判昭和39年9月17日(民集18巻7号1461号))。
 
「悪意」とは、単に事実を知っているだけにとどまらず、倫理的に非難されることを意味します(秋武憲一、岡健太郎編著『離婚調停・離婚訴訟【改訂版】』114頁)。配偶者の一方が正当な理由なく子どもを放置して家を出るケース、収入があるにもかかわらず婚姻費用の分担をしないケースが「悪意の遺棄」に該当します。
 
 
 

3年以上の生死不明(3号)

 
同号は、配偶者の生死が3年以上明らかでない場合、離婚が認められることを規定しています。「生死不明」という要件である以上、単なる行方不明や音信不通では足りず、死亡の可能性が相当程度あることが必要となります(秋武憲一、岡健太郎編著『離婚調停・離婚訴訟【改訂版】』115頁)。
 
生死不明の状態が3年に満たない場合、同号の要件は満たしませんが、「婚姻を継続し難い重大な事由」(5号)に該当することがあります(秋武憲一『離婚調停(第3版)』95頁)。
 
他方配偶者が生死不明である以上、調停前置を要さず、訴訟提起をした上で、被告の住所が不明であることを理由として公示送達によって訴状送達とみなし、原告が離婚原因を立証することが必要です(公示送達の場合、主張した事実の立証が必要なので、証拠の提出が求められます。)。
 
なお、配偶者の生死が7年間不明である場合、失踪宣告の制度を利用することができます(民法30条)。失踪宣告の効果として、配偶者が死亡したものとみなされた場合(民法31条)、婚姻関係も当然に終了します(この場合は相続も開始します。)。
 
 
 

強度の精神病(4号)

 
同号は、夫婦の一方が重い精神病に罹患し、夫婦間に精神的交流が失われ、婚姻関係が形骸化しているような場合に離婚を認めるものです(秋武憲一『離婚調停(第3版)』95頁)。単に精神病に罹患しているだけでは足りず、強度であり、回復が困難な状況にあることが必要です。
 
しかし、実際には、同号の要件は厳格に判断される傾向にあります。これは、精神病に罹患した配偶者は、自身に責任がないにもかかわらず離婚され、他方の配偶者からの経済的な援助がなくなることから、裁判所としても慎重に判断する必要がある点に理由があります。
裁判例の中には、アルツハイマー病は「精神病」ではないとし、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして離婚請求を認容したものがあります(長野地判平成2年9月17日(家月43巻6号34頁))。)。
 
ちなみに、一方配偶者が精神病に罹患し、成年被後見人の審判を受けている場合、他方配偶者は、成年後見人を被告として離婚訴訟を提起することができます(人事訴訟法14条1項)。他方配偶者自身が成年後見人として選任されている場合は、成年後見監督人を被告として離婚訴訟を提起できます(同条2項)。
 
 
 

その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)

 
同号は、全ての事情を総合的に考えた結果、到底円満な夫婦生活の継続又は回復を期待できない状態になっている場合をいいます(秋武憲一『離婚調停(第3版)』96頁)。
事実の要件で構成される1号ないし4号と異なり、5号の事由は、事実に対する評価から構成されている要件ですので、抽象的離婚原因と呼ばれます。法律的には、規範的要件事実に当たるため、離婚を請求する当事者は、5号に該当する評価根拠事実を主張立証する必要があります。
一方、離婚の請求を争う他方配偶者としては、評価障害事実を主張立証する必要があります。
 
 
      • 1.長期間の別居

 
      • 5号の代表的な例は、長期間の別居です。実務上、他に特段の理由がなくても、5年以上別居している場合、婚姻関係が破綻していると認定されるケースが多いです(秋武憲一『離婚調停(第3版)』96頁)。

 
 
      • 2.性格の不一致

 
      • 「性格の不一致」は、多くの方が挙げる離婚理由のひとつです。性格の不一致から喧嘩に発展し、暴力を受けた場合や、日常的な暴言を受けている場合には、このような事情も考慮し、離婚が認められることもあります。しかし、性格の不一致のみを理由とする場合、これだけで裁判所が「婚姻を継続し難い」と認定し、離婚を認めるケースはほとんどありません。

      • したがって、性格の不一致を理由とする場合、その他にも離婚原因となる事情があるか否か、協議や調停段階において、条件次第で他方配偶者が離婚に応じる可能性があるか否か、慎重に見極める必要があります。 

 
 
      • 3.モラルハラスメント

 
      • 他方配偶者を精神的に追い詰める言動をモラルハラスメントといいます。

      • 暴言を吐く、無視をする、過度な束縛をする、十分な生活費を与えないといった行為がこれに該当します。モラルハラスメントに悩み、離婚を検討される方は多いと思います。

      • 実際、ご相談者の中には、モラルハラスメントを理由とする離婚を希望される方が多くいらっしゃいます。中には、長年にわたるモラルハラスメントを受けた結果、ご自身がモラルハラスメントを受けている認識すらないという方もいらっしゃいます。

      • モラルハラスメントを離婚の理由とする場合、その言動が「婚姻を継続し難い」という程度に達するものであるか、その証拠の有無が非常に重要です。モラルハラスメントは、生活の中で日常的に行われることから、証拠が残りにくい性質を有しています。

      • また、一つ一つの言動が暴行や脅迫のレベルに該当するようなものでないケースも多く、どのような証拠を確保すればいいのか難しいケースもあります。

      • 日常的な言動が積み重なることによって他方配偶者を精神的に追い詰める性質を有している以上、日々の発言の録音や、メールやLINEのスクリーンショット等、あらゆる証拠を積み重ねて主張立証する必要があります。

      • まだ同居を継続している場合には、こういった細かい証拠を収集しておくと、裁判に至った場合、自身の主張を裏付けることができる可能性があります。

      • 実務上は、一部のモラルハラスメントを立証する証拠しか集められなくても、他の要素、例えば一定期間の別居と併せて、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると主張するケースが多いです。

 
 
      • 4.その他の代表的な例

 
      • 例えば、配偶者から暴力を受けていること、暴言を吐かれていること、配偶者が犯罪行為を働いたこと、過度の宗教活動をしていること等も、「婚姻を継続し難い」という程度に達していると証拠によって認定されれば、同号を理由に離婚が認められます。